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 酒とパンダとごはんとコドモ。無理せずラクに、まいにちのくらし。

生活

ロック母

ロック母

2006年に川端康成賞を受賞した表題作をはじめ、この15年間に発表された短編を加筆修正することなくまとめたもの。初期の作品は著者自身も「拙い」と言いながら、「気に入らない部分をなおせばすっきりするだろうが、そうするとうろつく足跡が消えてしまう」と二度と戻ることのできない場所もすべてその軌跡としてまとめたという策略にまんまとやられました。
中でも92年に芥川賞候補になったものの、単行本未収録だった「ゆうべの神様」は、狭い町で近所の好奇の目にさらされながら、激しい夫婦喧嘩をくり返す両親のもとで暮らす高校生の娘が主人公。夫婦喧嘩の描写も、それを冷ややかに見つめながらもどこにも行けない息苦しさも、この段階ですでに角田小説として安定したものを感じる。「ロック母」といい、角田さんは家族やその土地に住む者が持つ閉塞感や、どんな状況でも生きていかなければならない人間の図太さを描くのが本当に巧すぎる。どんなに辛い目に遭っても現実には簡単に自己崩壊したりできないし、一気に状況が変わるような出口なんて見つからない。何かを壊したり傷つけたりすることで解決するなら楽だよな、と思いながらも淡々と暮らしていくことしかできない私たちは哀しいのか、楽しいのか。
個人的に好きなのは「ゆうべの神様」「爆竹屋」。あと「カノジョ」の描写がリアル過ぎてこわい。