pandalzen

 酒とパンダとごはんとコドモ。無理せずラクに、まいにちのくらし。

100万人が泣いた!

ハッピーバースデー

ハッピーバースデー

これも図書館で予約して借りたもの。
11歳のあすかは実の母親に愛してもらえず、誕生日さえ忘れられ、声を失ってしまう。しかし、優しい祖父母の元で自然の営みに触れ、「いのち」の意味を学ぶ。生まれかわったあすかがどんな行動を起こすのか。そして、母親の愛は戻って来るのか?
一時期ものすごく絶賛され泣ける!と評判になった本ですが、実は数年前に児童書として出版されたものの一般向け加筆版。実は小学生向けの人権学習用アニメ映画がありそれを観たこともあるので、もともと期待はしていませんでしたが・・・。
話のベースは虐待。言葉や心理的な虐待に主人公は傷つくんだけど、本当に苦しい子供はそんな具体的に「ママ、私を愛して」とか認識できないと思う。認識できないまま無意識にいい子であろうとしたりするものだと思うのに、このあたりは大人の都合で描かれている気がする。
出来のいい兄は母親に可愛がられているのに、自分は「産まなきゃよかった」と言われる。でも実はその母親も愛情に飢えていたためにわが子をうまく愛せないということがわかるんだけど、そんな母親を育てた祖父母がなぜ孫を救うことができるのか?その前にするべきことがあるのでは?とか、名門校に通う兄も母親と一緒になって「おまえなんか生まれてこなきゃよかったのにな」と平気で言ったりしてたのに、ちょっとしたことでコロッと主人公を守る優しい兄になるのはどうも解せない。ラストでは冷たい母親も封建的な父親もみんな主人公に優しくなるのは白々しくてリアリティに欠ける。
物語としてなら虐待の連鎖と母親自身が自分を見つめていく過程だけに絞って描けば良かったのに、立ち直った主人公はやたら前向きで元気な子になり、転校先で「不登校をしていたやっかいな子供」という態度をあからさまに出す担任にも屈せず、クラスでいじめられている子をかばい「いじめはおかしい」と訴えたり、隣接する養護学校の重度の障害を持つ女の子との友情を育んだり、盛りだくさんすぎる。
唯一共感できるのは、主人公が母親を「静代さん」と名前で呼ぶようにするところ。母親だと思うから愛してほしい、なぜ愛してくれないのかと思うけど、他人と思って接すれば穏やかな気持ちでいられるという思いからとった行動なんだけど、私も子供の頃これをやっていたことがあります。でもそのときはそんな理由から自分がそうしていたとは全く思っておらず、大人になって初めて、「ああ、あれは無意識の自己防衛だったのだな」と気づきました。
著者が教育関係の人らしく、ひとつひとつの事例は現実にあることなんだろうけど、エピソードを詰め込みすぎて人物が描けていない。みんないい子すぎるし、魅力がない。文章もはっとする表現など皆無。
シンプルなほうが泣ける人にはお勧めしますが、「こんな表現があったのか!!」という衝撃を求める人には物足りないです。