pandalzen

 酒とパンダとごはんとコドモ。無理せずラクに、まいにちのくらし。

サスペンス?

八日目の蝉

八日目の蝉

久々の長篇。まずは80年代を舞台に赤ちゃんが誘拐されるという事件からはじまるので、「三面記事小説(id:renpanda:20080207#p2)」のような趣も。以下、ネタバレです。
不倫相手の赤ちゃんを連れ去ってしまう主人公が、東京→名古屋→小豆島へと逃亡しつつもその子どもを愛情いっぱいに育てようとする姿に苦しくなります。途中数年間生活をする「エンジェルホーム」という施設も、世間から隔離された宗教団体のような偏った自己啓発を行う集団としてなんだか時代を感じる部分。
結局主人公は捕まり、物語の後半は成長したその子ども自身が主人公となるのですが、本当の両親のもとへ帰っても決して「めでたしめでたし」にはなり得ない現実が描かれています。
被害者であるはずの一家が、事件の原因を作ったとして周囲の好奇の目にさらされ、学校に行けば「誘拐された子」としてみんな遠巻きにする。確かに夫の不倫相手に育てられたわが子を見れば愛情と憎悪がごちゃまぜなってしまう母親の気持ちもわかるし、父親はおだやかに振舞ってはいるけど、その現実に対して無関心でいようとする。みんながここから逃げたくて、でも逃げることはできなくて、それを受け入れて一緒に暮らしていくのは家族全員にとってあまりにも辛すぎる・・・。
崩壊してしまった家族が、少しずつでも再生することを願います。でもこの小説って「サスペンス」だったのね。読み終えてから知りました。犯罪が扱われているものの、全体に流れる雰囲気はいつもの角田さんだったから。