pandalzen

 酒とパンダとごはんとコドモ。無理せずラクに、まいにちのくらし。

あたらしめ

三面記事小説

三面記事小説

実際の事件を元に、フィクションで書かれた短編集。一気読み必至です。
どれも事件が起こるまでの加害者またはその家族の心理が描かれていて、新聞記事の結末から始まるのでラストはわかっているのに、落ちていく人間の心理描写にぐぐっと読ませられます。特に最初の三篇がよかった。「愛の巣」では事件を起こしたのは姉の夫なんだけど、主人公の暮らしも足元から崩れ落ちるような事態が発覚する件は読んでて鳥肌が立った。また、「ゆうべの花火」のモチーフとなった、不倫相手の妻の殺害をネットで依頼したのに実行されないからと警察にかけこんだというニュースは記憶にも残っています。記事だけ見るとなんでそんなアホなことを・・・と思うのですが、不倫相手を振り向かせることができないのならせめて泣かせたい、怒らせたい、自分がここにいることを知らしめたいという「警察沙汰にすることで、彼の人生に関わることができるか否か。」 という一点ですべて納得。そして「彼方の城」では、主婦が家出少年に声をかけて自宅に引きずり込むという事件そのものは現実感がないのに対し、夫が女を作って家を出て行き、残された子どもも思い描いたようには成長せず、「こんなはずじゃなかった」と幸せになることから見放されたような思いで日々を過ごす彼女が何かを求めてもがく様子がおそろしくリアルに描かれていて、人間というのは希望のために間違いを犯してしまうものなのかとつくづく感じました。